Zanmari Baré 「VOUN」 ~ レユニオン島の場所と歴史と音楽を知る

Zanmari Baré(ザンマリ・バレ)というアーティストの最新アルバム『Voun』。
フランスのニュースサイトで偶然レビューを見て気になって聴いてみたら、新鮮で面白く良い音で、ついでに世界についての知識が増えました。
Zanmari Baréは、レユニオン島のシンガーソングライターで、やっている音楽ジャンルは「マロヤ(Maloya)」。
レユニオン島とは? マロヤとは? 普通に日本で生活しているとどちらもあまり馴染みのない言葉だと思います。ということで調べました。
レユニオン島とは

レユニオン島(Ile de la Réunion)はインド洋に浮かぶ小さな島で、アフリカ大陸寄りの南のほう、マダガスカル島の近くにあります。セレブなリゾート地として知られるモーリシャスなどと同じ、マスカレン諸島に属する島のひとつ。
ということはアフリカの国? と思いますが、レユニオン島は国で言うと……なんとフランス! フランスの海外県ならびに海外地域圏(アメリカで言うところの「州」にあたる行政区画)らしいです。
フランス本国からは遠く離れていることからもわかるように、もともとは大航海時代の頃(16~17世紀)にフランス人が上陸して領土にした無人島で、インドへの中継地にするため開発と植民が行われたとのこと。
その歴史と地理ゆえに、フランスから移り住んだ人とマダガスカルから連れてこられた人と、さらにアジアや中東方面から舟で渡ってきた人たちの混血が進み、現在では人口の64%がクレオルと呼ばれる混血だそう。話す言語もフランス語をもとにしたレユニオン・クレオル語という独自の言葉になっています。
いやはや勉強になりますね。学校の地理で習った記憶はございません……もう20年前ですが……習ってないはず。
音楽をきっかけとしてこのような新しい知識が得られるというのは素晴らしいことです。
ワールドミュージック(という言葉もいろいろと複雑で良し悪しがありますが)を聴くことは、純粋に音楽を楽しむというだけでなく、より広く世界を知るきっかけになり得るのですね。
話を戻しましょう。続いてのワード「マロヤ」について。
マロヤとは
マロヤはレユニオン島の伝統的な歌と音楽と踊りのこと。もともと無人島だったというレユニオン島ですが、マダガスカルから連れてこられた奴隷たちによって独自の音楽が生み出されたのでした。
いくつかの特徴的な打楽器を用いて演奏され、宗教的・呪術的なものや先祖に捧げる歌のほか、奴隷たちの嘆きや権力への抵抗などが歌われたものが多いそうです。そのため植民地時代には支配者によって禁じられたことも。
しかしその伝統は途絶えることなく受け継がれ、2009年にはユネスコ世界無形文化遺産に登録されました。
現代ではギターやキーボードなどを取り入れた新しいサウンドのマロヤも登場し、進化と発展を続けているそうです。
ザンマリ・バレについて
Zanmari Bareは、マロヤを現代に蘇らせた第一人者と言われる Danyel Waro(ダニエル・ワロ)のスタイルを受け継ぎ、伝統を守りながら新しいマロヤを追求しているアーティストの一人。
2013年にファーストアルバム『Mayok Flér』をリリースしており、2018年2月にリリースされた今作『Voun』が2作目のアルバムです。
マロヤの打楽器である、roulèr(手で叩く太鼓)、kayanm(サトウキビの乾燥させた茎を並べて振って音を出す楽器)、bob(ブラジルのビリンバウと同じ仕組みの弓に張った弦を叩く楽器)などによって奏でられるリズムに、素朴で美しいメロディーの独唱と反復フレーズのコーラス。
8分の6拍子のリズムやコーラスはアフリカを感じさせますが、力強さの中に不思議な浮遊感と哀愁が漂います。ブラジル音楽好きとしては、完全にビリンバウなbobの響きにブラジル北東部を感じ、海を越えてつながる文化の面白さに酔わされます。
よく知らないエリアの音楽を初めて聴くときはどうしても「勉強」的な部分が出てきてしまうのですが(もちろんそれはそれでとても面白い教養体験になるのですが)、そんなことは考えずに単純に音として聴いても楽しい、美しい、心地よいアルバムでした。
寝る前に静かに流すにも良いです。落ち着きます。是非お試し下さい。
ちなみにレユニオン島はサトウキビが主要農作物で、ブルボン種というコーヒー豆の原産地だそうです。甘いコーヒーとともに聴くと良いかもしれませんね。